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弁護士 江本秀春
同  後藤 徹
同  佐藤義雄
同  横路民雄
同  川村俊紀
同  伊藤誠一
同  新川生馬

 中教審の特別部会で審議されている「教員の働き方改革」については、教員の生命・心身の健康を守ることを中心に労働者の人権問題として、長時間労働の解消に向けた実質的な議論がされるべきです。そのためには、教員の業務が正規の勤務時間内で終わることが可能な定員増加、担当する授業時数の削減、部活動の負担解消などの抜本的な対策が必要不可欠であり、単なる業務の効率的な運用改善や組織体制整備等では不十分です。また、教員の超勤(時間外・休日勤務)の抑制に実効性がある法制度の整備、すなわち、給特法の見直しも行われなければなりません。それなくしては子どもの教育を受ける権利の保障もないのです。
 教員の長時間勤務が益々深刻化している大きな要因は、給特法の給与月額4%の教職調整額を支給するのみで、それ以外の超勤手当を支給しないことにあります。この給特法のしくみを改善しない限り、教員の長時間勤務は、その解消は覚束ないばかりか、今後も益々肥大化することになります。北教組の「超勤手当訴訟」がそのことを物語っています。

1 「超勤手当訴訟」は、道教委が北教組との超勤制限に関する協定書を破棄したことを契機に、北教組が教員の超勤の常態化を社会的に明らかにし、その改善を図るために、2002年12月に札幌地裁に提訴した訴訟です。

 北教組は、提訴に先立ち2001年11月から1か月間組合員3900名余を対象に勤務実態調査を行いました。調査では、教員一人の1か月間の限定4業務以外の超勤時間が平均51時間26分であり、月間80時間超の教員は全体の2割、100時間超の教員は全体の1割に及ぶことが明らかとなりました。この調査結果を踏まえ、組合員1687名が原告になって、1か月分の超勤手当一人平均19万円余を教委に対して請求しました。その主張は、給特法・条例は限定4業務以外の超勤を禁止しているので、労基法37条を適用除外し超勤手当不支給としているところ、禁止しているはずの超勤が常態化しているのであるから、その場合には労基法37条適用除外の規定、すなわち超勤手当不支給の規定が排除され、超勤手当は支給されるべきである(超勤手当不支給規定の限定的解釈をすべき)というものでした。

 訴訟の1審札幌地裁判決は、給特法が労基法37条を適用除外しているとの形式的な解釈で請求を棄却しました。控訴審の札幌高裁判決は、長時間の超勤が常態化している事実を認めながら、超勤は教員が自主的に行ったものであるとして、給特法の労基法37条適用除外の規定が排除される場合には当たらないといい、結局は超勤手当の支給を受けられないとしました。しかし、判決は、超勤の常態化と給特法による労基法37条適用除外との矛盾を無視できず、「財政事情、給源等が許す限り、教育職員の定数を増やす努力を引き続き行う必要がある。」「教育改革がなされることを切望する。」と付言で述べています。最高裁は内容に立ち入ることなく、上告棄却・不受理の決定をしました。

 以下において、まず給特法・給特条例の問題点を述べ、次いで、この控訴審判決の批判を通して、給特法・給特条例が教員に無定量・無限定の超勤を強いる主要な原因になっており、給特法を見直ししない限り、司法をもってしても超勤常態化の不合理は解消されないことを明らかにしたいのです。

2 給特法は1971年5月に制定されました。制定前、教員にも労基法37条が適用されていましたが、文部省は超勤を命じないとの建前で、実際に超勤を行っても手当不支給としていました。この違法措置に対する教員の超勤手当請求訴訟が全国規模で起こり、当然のことながら、労基法37条に基づいて超勤手当支給を命じる判決が続出しました。いわゆる第1次超勤訴訟です。政府はこの対応策として、給与月額4%の教職調整額を支給することで超勤手当を支給しないで済ます法律の制定をめざしました。その結果制定されたのが、給特法です。

 給特法は、労基法32、34、35条の労働時間の原則を前提としながら、超勤については、労基法33条3項を適用することと、超勤を文部大臣と人事院が協議して定める場合に限ること(旧7条)と定める一方で、給与月額4%の教職調整額を支給する代わりに労基法37条を適用除外して超勤手当を全く支給しないこととしています。教員の職務と勤務態様の特殊性を理由に、特例を定めるということです。

 この法律は、超勤させる場合を限定するとしていますが、超勤しても手当を支給しないとしているのですから、教員の超勤の歯止めを初めから欠如したものでした。このことは立法の過程で、中央労働基準審議会が労基法37条の適用除外が適当ではないと建議していたことでもありました。

 そこで、給特法成立に当たって、超勤の限定については職員団体と協議を尽くさせることとされ、制定後に日教組と文部省間で確認書が交わされ、それに基づいて文部省は、原則として超勤を命じないことや例外的に命じる場合でも生徒の実習など5業務に限ることなどを訓令で定めました。これを受けて、給特条例の制定に当たり、北教組は道教委と交渉し、協定書及び覚書を締結しました。

3 北海道給特条例と「協定書・覚書」

 道内公立学校教員の正規の勤務時間は、勤務条例で週38時間45分、月曜日から金曜日まで1日7時間45分、土日は週休日と定めています。そのうえで、給特法に基づく給特条例で、原則として超勤を命じないこと、命じる場合は①生徒の実習、②学校行事、③職員会議、④非常災害の4業務に限り、臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限ること、給料月額4%の教職調整額を支払う代わりに超勤手当を支給しないことを定めています。

 しかし、この給特条例が施行されたら学校現場の実情からして超勤が際限なくなることが必至であったので、その歯止めが必要でした。そこで、北教組は道教委との間で「協定書・覚書」を締結しました。その内容は、教委は超勤をさせない原則を厳守すること、超勤をさせた場合には、直近日に回復措置を講じること、給特条例施行に伴う勤務条件について教委は、北教組との交渉に応じることなどでした。

 この「協定書・覚書」は地公法による書面協定ですから、道教委は誠意と責任をもって履行しなければならないものですが、当初から誠実に履行せず、超勤の常態化を招いたばかりでなく、2001年2月には校長の服務監督権を理由に「協定書・覚書」の一部破棄を通告し、北教組の超勤に関する交渉権を否定して、超勤の「歯止め」をないものとしました。道教委が超勤解消の責任に背を向けて「協定書・覚書」を破棄したことを極めて不当として、北教組は「超勤訴訟」を起こしました。

4 判決批判①    「職務と勤務の特殊性」を理由に超勤手当不支給を合理化できない。

 判決は、給特法制定時の人事院の意見や政府答弁などを挙げ、給特法、給特条例の規定は教員の職務と勤務の特殊性に照らし、極めて合理的なものと評価できる、としました。つまり、「職務の特殊性」として、自発性、創造性や職務内容の多様性を、「勤務の特殊性」として、夏休みなどの長期の学校休業期間や勤務密度に濃淡があることなどを挙げ、勤務時間の計測や管理を行うことが困難ないし不適当であるから超勤手当の規定を適用しないのが合理的であるとしたのです。

 しかし、教員の自発性や創造性は、教育専門職として、教育内容や方法の研究・決定・実践についての自律的裁量であり、職務遂行上の特質です。このことは、教員の労働者としての権利を擁護するために勤務時間を限定し、そのために勤務時間の管理や計測をする必要があること、計測は可能であることとは別です。したがって、教員の職務についての自発性や創造性を理由に超勤手当を支払わなくてよいことにはなりません。この点では私立学校の教員と公立学校の教員とで区別はありません。

 かえって、教員の長時間勤務は、教員の自発性や創造性の発揮の支障となるので、自発性や創造性を尊重するのであれば教育行政機関は、教員の長時間勤務を解消しなければなりません。

 教員にも労基法32、34及び35条が適用され、その制約のもとに勤務時間条例が正規の勤務時間を定めています。これは、教員の自発性や創造性を認めた上で、それとは別に、勤務時間の適正な管理が必要であり、勤務時間を客観的に計測することが可能であることを認めているからです。

 また、長期の学校休業期間も、その期間に教員は勤務を免除されるわけではありません。授業準備、教材研究、部活動、生活指導など、実際に職務に従事しています。したがって、ほかの時期の超勤の代替休暇となるわけではなく、労基法37条適用除外の理由にはなりません。

5 判決批判②    教職調整額の支給をもって労基法37条適用除外を合理化することはできない。

 判決は、教職調整額が超勤手当不支給の代償措置であり、勤務時間の内外を通じて包括的に再評価して新設されたものであるから、超勤しても超勤手当の支給を受けられない、といいます。

 しかし、給特法が教職調整額を給与月額の4%と定めたのは、1966年に文部省が行った教員の勤務実態調査結果に基づくもので、週40時間勤務として1か月当たり6時間24分の超勤に相当する賃金に過ぎません。北教組が2001年に行った勤務実態調査結果では、1か月あたり校内超勤が37時間01分、自宅持ち帰り超勤が14時間25分、合計51時間26分です。後者は前者の約8倍です。給与月額4%の教職調整額が労基法37条適用除外の代償措置だとは到底いえません。しかも、教員の超勤は年々増加しており、現在、その乖離は更に拡大しています。

 元々、給特法・条例は、超勤を原則として禁止し、例外として4業務に限って臨時又は緊急にやむを得ない必要あるときに認めることとし、この建前の下で例外的に行った超勤の代償措置として教職調整額を支給するものとしていました。つまり、4業務以外の超勤は行われないものとして、労基法37条適用除外を合理化しています。しかし、調査結果による実態は、授業準備、教材研究、成績評価、生徒指導、部活動指導など4業務以外の超勤がその殆どであり、まさに限定4業務以外の違法な超勤が常態化しているのです。教職調整額の支給は、違法な超勤に対する「歯止め」として全く機能していないのです。かえって定額(低額)の教職調整額を支給するだけで、超勤に見合った賃金を支払わないことによって、無定量・無限定の超勤を常態化させているのです。このことは給特法の制定当初から指摘されていました。

6 判決批判③    超勤手当不支給条項の「限定解釈」も相当ではない。

 判決は、一方では、超勤手当を支給しないのが給特法・条例の趣旨というが、他方では、超勤に至った事情や超勤の職務内容等に照らし、超勤を命じられたと同視できるほど教員の自由意思を極めて強く拘束する形態で超勤がなされ、それが常態化しているなど、給特法・条例が超勤を限定している趣旨を没却するような事情が認められる場合には、超勤不支給の条項の趣旨が没却されているとして、超勤手当の支給を認めるのが相当であるといいます。いわば、超勤不支給条項の限定解釈をしたのです。しかし、結論は、超勤は教員の自主的な行為であるとし、「極めて強く拘束する形態で超勤がなされた」との的確な証拠はないとして、超勤手当の支給を認めはしませんでした。

 判決が給特法・条例の規定を限定解釈して、超勤手当支給が認められる場合があり得ると判断したのは、超勤が常態化し肥大化している現実と、給特法の超勤手当不支給の規定との矛盾があまりにも大きいからです。すなわち、超勤の実態に照らし、給特法・条例の超勤手当不支給規定の不合理性を認めたからと言えます。

 しかし、判決がいう「自由意思を極めて強く拘束する」との要件は相当ではありません。給特法・条例は限定4業務以外の超勤を禁止しているのですから、教員が正規の勤務時間外に4業務以外の勤務を行ったのであれば、それ自体が給特法・条例の趣旨を没却する事態です。給与月額4%の教職調整額は超勤手当の代償措置とは評価できないのですから、教員が限定4業務以外の長時間に及ぶ超勤を行うことが常態化している場合は、そのこと自体が給特法・条例の趣旨を没却する事態として、超勤が教員の自主的行為か否かとは関係なしに超勤手当不支給の規定の適用は排除され、超勤手当は支払われなければなりません。

7 判決批判④    超勤を「自主的行為」として手当不支給を正当化することは許されない。

 判決は、給特法・条例の手当不支給条項を限定解釈して、その適用が排除される場合があるかのようにいっていますが、北教組の「超勤訴訟」の場合は、原告らが自らの意思で決定して超勤を行った「自主的行為」と評価できるから超勤手当は受けられない、といいます。

 判決は、教員の日常的な仕事として授業とその準備、成績評価、テスト採点、生活指導、学級事務、部活動指導、校務分掌、職員会議、各種報告書作成等多様なものがあり、これらの仕事を全て正規の勤務時間内に処理することは困難であること、その結果、1か月平均51時間26分もの超勤となったことを認めていますが、教員は必然的に超勤になることを前提に職員会議で職務分担を決めているのだから、超勤は自主的に行ったものであるというのです。校長が「お願いした」業務であっても、引き受けた教員の自主的な決定であるといいます。

 教員が超勤してまで行っている業務は、いずれも直ちに処理しなければならない差し迫った業務であり、その業務を行わないで済ますことはできないのが実情です。その最大の要因は、教員の担当授業時数が多く、授業が正規の勤務時間の大半を占めていて、判決も認めるように正規の勤務時間内で授業以外の必要な仕事を処理することは困難だからです。給特法・条例が4業務以外の超勤禁止と定めていても、それを遵守し得る客観的な条件が整備されていないために、教員が本来の業務を正規の勤務時間外に行わざるを得ず、超勤を余儀なくされているのです。やってもやらなくてもどちらでもよい仕事を教員がすすんで行っているわけではありません。したがって、超勤は、教員が限定4業務以外の本来業務を余儀なくされて行っているものであって、「教員の自主的行為」との評価は事態を正しく評価したものとは言えません。判決があえて「自主的行為」というのは給特法・条例の超勤手当不支給の規定に結論を合わせるためとしか言いようがないのです。

 教員は限定4業務以外の本来業務について余儀なく超勤をさせられているのですから、そして、それは給特法・条例の原則超勤禁止の趣旨を没却する事態なのですから、本来に立ち戻って、超勤手当を支給しなければならないはずなのです。

 以上のように、給特法・条例は、限定4業務以外の超勤を原則禁止とし、超勤が行われないとの建前から超勤手当を支給しないとしていますが、超勤の「歯止め」であるはずの労基法37条の割増賃金規定を適用除外していることから、教員の無限定・無制限な超勤を常態化・肥大化する教員の「働き方」にとって重大かつ深刻な事態の主要な原因になっています。これは給特法・条例の本質的な欠陥であり、司法の法律解釈をもってしても解決できるものではありません。

 教員の超勤の常態化・肥大化の解消は、教育行政の責任ですが、そのためには、教員の業務を正規の勤務時間内で処理できる範囲及び分量に縮減すること、すなわち、教員の定員増加、担当授業時数及び学級人数の減少が必要不可欠です。そのうえさらに、無定量・無限定の超勤の歯止めとして労基法37条の割増賃金の規定を法律で明定すること、すなわち、給特法・給特条例の抜本的な見直し・改定が必要不可欠なのです。「超勤訴訟」はこのことを示しているのです。

「労旬」(労働法律旬報)2018年12月下旬号掲載

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