北海道教育問題懇談会 国会議員 各位 |
2019年10月9日 |
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文科省は今国会において、学校における「働き方改革を推進する」として、①「1年単位の変形労働時間制」を各自治体において実施できるようにする、②「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を指針化する、「給特法の一部を改正する法律案」を上程しようとしています。 しかし、「1年単位の変形労働時間制」は、何ら超勤を削減するものではないことから、まず、現状の勤務実態の改善を行うべきです。変形労働時間制導入の前提は「時期により繁閑の差があり、突発的なものを除き恒常的な超勤がないこと」とされるところ、教員は1日の平均勤務時間が11時間17分(18年10月30日公表、厚労省『過労死等防止対策白書』)となっており、子ども・保護者対応で突発的な業務も多く前提を欠いています。こうした現状にあって「1年単位の変形労働時間制」を導入することは、一層超勤を黙認・助長し超勤手当不支給の違法を「合法化」することとなりかねず、「1日8時間労働」の労基法の原則を形骸化し、教職員の健康被害を増大しかねないもので許されません。 「給特法」は第6条1項において、「教育職員を正規の勤務時間をこえて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限る」と規定し、政令・条例は「原則として時間外勤務を命じない」「命じる場合は、超勤4項目の業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限る」としています。しかし、「本来業務」自体が過多となり、正規の勤務時間内に終えることができずに、命令によらない限定4項目以外の超勤(文科省によれば「自主的・自発的な勤務」)が不可避となり常態化しているのが実情です。根本的な要因は、教員一人あたりの持ち授業時数が多いことにあることから、「教職員定数増」と「年間標準授業時数の削減」を行うことが不可欠です。 今、学校現場では「1年単位の変形労働時間制」を導入する前に、中学校における部活動指導も含め、所定の勤務時間内ですべての業務を終えることができるよう大幅な業務削減が必要であり、超勤の常態化に歯止めをかける必要があります。少なくとも長期休業中の業務等を大幅削減することによって「繁閑の差」をつくり、やむを得ず行った超勤に対して、「勤務時間の割振変更」による実質的な回復を行うことで、教職員が確実に休むことができる制度にすべきです。その際、回復は原則として直近に措置し、教職員の健康に最大限留意すべきです。北海道では、これまで4週の期間における「勤務時間の割振変更」により、修学旅行の引率業務等に対して、実施後の直近に1日単位の実質的な回復を措置させてきました。「1年単位の変形労働時間制」と「1か月単位の変形労働時間制」との併用など、現場実態に合わせて柔軟な運用が可能となる制度設計が必要と考えます。 今般、指針化させようとしている文科省「勤務時間の上限ガイドライン」は、教員等が校内に在校している時間を「在校等時間」と定義し、そこから所定の勤務時間の総時間を減じた超過勤務の「上限を45時間」としています。これは1日の勤務時間を7時間45分と定めた「勤務時間条例」や「原則として時間外勤務は命じない、命ずる場合は限定4項目の業務に限る」との規定した「給特条例」を形骸化し、月45時間までの超勤を許容するものとなりかねません。これを「給特法の一部改正案」により指針化することは、「限定4項目以外は自主的・自発的勤務」とする文科省の主張に法的根拠を与えることになり、労基法上の労働時間として認定し時間外勤務手当等の支給を求める「給特法」の改廃をすすめる上での障壁となりかねません。現状を改善するためには、明示の命令の有無にかかわらずやむを得ず行った超勤については労基法上の労働時間とするよう「給特法」の廃止・抜本的見直しが不可欠と考えます。 今回の「給特法の一部改正」にあたって、中教審「答申」の工程において労使交渉及びその結果としての労使協定の締結が予定されておらず、この点においても労基法の原則の形骸化が懸念されます。 以上のことから、教職員に対する「1年間の変形労働時間制」などの一方的な導入とさせず、教職員定数増、「給特法」の廃止・見直しなど抜本的な超勤・多忙化解消策を求め、下記の項目について、文科省へ意見反映するよう要請します。 |
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記 |
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1. |
教職員の超過勤務の解消に向け、「標準定数法」を改正し、教職員定数を増やすこと。少なくとも、超過勤務解消に特化した加配措置や小学校専科の増員を行うこと。 |
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2. |
「学習指導要領」を改正し、年間標準授業時数の削減を行うこと。また、年間標準授業時数の扱いについては厳格なものとせず、過度に余剰時数を確保している現場実態を直ちに改善すること。 |
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3. |
部活動を社会教育に移行させること。 |
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4. |
教育職員の超過勤務については、国・県による教育施策に大きく左右されることから、服務監督権者にのみ責任を転嫁するのではなく、文科省及び任命権者である各県教委に教職員の時間外勤務の増加とならない教育施策立案とさせること。 |
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5. |
「勤務時間の上限ガイドライン」の指針化にあたっては、「所定の勤務時間7時間45分」「命じる場合は、超勤4項目の業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限る」などの条例の規定が形骸化しないよう必要な措置を講ずること。また、明示の命令の有無にかかわらず、やむを得ず行った時間外勤務については労基法上の労働時間とするよう「給特法」の廃止・抜本的な見直しを行うこと。 |
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6. |
教職員に「1年間の変形労働時間制」を一方的に導入しないこと。導入の前に、中学校における部活動指導も含め、所定の勤務時間内ですべての業務を終えることができるよう大幅な業務削減を行うこと。 |
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7. |
勤務時間は勤務条件であることから、①「1年単位の変形労働時間制」を各自治体において実施できるようにする、②「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を指針化する、ことについては、各級段階における交渉事項であることを周知・徹底すること。 |
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8. |
「教職員の超過勤務の実態」とともに、「指針」「変形労働時間」など行った施策については、実施状況とその効果を必ず検証し、その検証結果を踏まえ「給特法」の改廃を含め不断の改善を行い、実効ある超勤解消策とすること。 |
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以上 |
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北海道教育問題懇談会 国会議員 各位 |
2019年10月9日 |
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〈 要請趣旨 〉 日頃、国政に精励されていることに深く敬意を表します。 さて、義務教育費国庫負担制度は、標準的な教職員数の確保について、国が責任を果たすものであり、へき地校などが多い北海道においては、教育の機会均等を保障する重要なものとなっていますので、この制度の堅持を求めます。また、当面「三位一体改革」で削減された負担率を1/3から1/2へ復元するなどの制度の改善が一層必要です。 17年9月に厚労省が発表した「国民生活基礎調査」では、18歳未満の子どもがいる世帯の子どもの貧困率は13.9%(2年前調査から2.4ポイント低下)と、依然として7人に1人の子どもが貧困状態にあります。とりわけ、ひとり親世帯は50.8%(同3.8%低下)と、未だに深刻な状況にあります。また、今年3月、文科省が発表した「就学援助実施状況等調査」では、要保護・準要保護率は、全国で15.23%と7人に1人、北海道においては全国で8番目に高い21.04%と5人に1人が補助を受けている状況となっており、依然厳しい実態にあります。 9月にOECDが公表した加盟各国の国内総生産に占める教育機関への公的支出割合では、日本は2.9%と、3年連続で35か国中最下位となりました。一方で、教育費のうち家庭が負担する割合は加盟国の中でも高い22%となり、特に大学などの高等教育は53%と家計の大きな負担となっています。 こうした状況にもかかわらず安倍政権は、13年度から生活保護費(生活扶助費)を段階的に引き下げ、18年10月からは、さらに「生活扶助」を引き下げました。これにより、生活保護費を認定収入基準としている準要保護家庭への就学援助に影響を及ぼしています。また、教育現場では、給食費、修学旅行費、テスト・ドリルなどをはじめとする教材費などへの私費負担が依然として減少しておらず、地方交付税措置されている教材費や図書費については自治体でその措置に格差が生じています。こうしたことから家庭の経済状況にかかわらず、子どもたちが安心して学ぶことができるよう就学援助制度などの拡大や私費負担軽減をすすめるための教育予算の拡充が必要です。 文科省は、19年度概算要求の中で、給付型奨学金の枠を41,400人(新規20,000人)とすることや無利子奨学金の貸与人数を43,000人増とするなど増額要求を行いましたが、対象条件を住民税非課税世帯かつ「成績優秀者」に限定しており、依然、不十分なものとなっています。未だに教育ローンともいえる有利子「奨学金制度」を利用せざるを得ない家庭・子どもたちは、返済に悩み苦しみ、経済的な理由で進学・就学を断念するなど教育の機会均等は崩され、学習権を含む子どもの人権が保障されない状況となっています。10月から幼児教育の無償化がされていますが、子どもの権利条約・国際人権規約にもとづき、就学前・初等教育から高等教育までの無償化やさらなる教育費の私費負担軽減等をはかることが求められています。住む地域や環境に関係なく平等に教育を受ける権利を有しています。その保障のためには、国による教育予算の確保と拡充が必要です。 文科省は8月、20年度の教育予算の概算要求を公表しました。その中で、20年度分として人増(~26年度までの8年間の教職員定数改善総数18,910人)の要求を行いました。しかし、教職員定数の自然減2,249人と教職員配置の見直し2,000人減を合わせた定数減が4,249人となっており、相殺して14人減となることから、「働き方改革」「教育課題への対応」へは不十分な要求となっています。 さらに、学校現場の働き方改革に関する予算として、「スクール・サポート・スタッフ」や「部活動指導員」の増員要求をしていますが、全国すべての公立小中学校に配置するものとはなっておらず、我々が求める抜本的な教職員の長時間労働を解消するものとはなっていません。子どもたちへのきめ細やかな教育のためには、基礎定数法改善による「第8次教職員定数改善計画」の策定、「30 人以下学級」など少人数学級を早期に実現することが必要です。 つきましては、国の責任において、どの地域においても子どもたちの学びを平等に保障するため、地方自治体の財政格差や家庭の所得格差が教育格差とならないよう、子どもの「貧困と格差」解消、「高校授業料無償制度への所得制限」撤廃や「就学援助制度」「給付型奨学金」拡充、教職員定数改善と少人数学級の早期実現など、以下の要請項目について格段のご協力を要請いたします。 |
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<要請事項> |
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1. |
国の責務として、子どもたちの教育の機会均等・水準の最低保障を担保するため、義務教育費を無償とするよう、また、義務教育費国庫負担制度の堅持、当面、義務教育国庫負担金の負担率を1/2に復元すること。 |
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2. |
就学援助制度・奨学金制度の更なる拡大、高校授業料無償化など、就学保障の充実に向け、国の責任において予算の十分な確保・拡充をはかること。 |
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3. |
教材費、給食費、修学旅行費など保護者負担を解消するため、国の責任において教育予算の十分な確保・拡充をはかること。 |
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4. |
「30人以下学級」など少人数学級を早期に実現すること。また、地域の特性にあった教育環境整備・教育活動の推進・住む地域に関係なく教育を保障するため、義務標準法改正を伴う「第8次教職員定数改善計画」の策定による教職員の定数改善をはかること。 |
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以上 |
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